クララ・シューマンの特注品によるグロトリアン・スタインヴェッグ社製(1877年、製造番号3306)のこのピアノは、1887年頃ドイツのクレフェルト市(デュッセルドルフ市の郊外20キロにある)でのコンサートの後クララ・シューマンによってクレフェルト市に寄贈され、長く演奏に使われたが、その後クレフェルト市郊外のLinn楽器博物館に移されたため、第二次世界大戦の連合軍による爆撃を免れた。
1984年に再びクレフェルト市営音楽サロンに戻されるも、音楽教育に使用するのが困難になり、20年前に日本の商社に譲渡され、日本に運ばれた。
2006年、岡山市にある劉生容記念館の所有となり、東京の武蔵野音楽大学楽器博物館所蔵のもう一台のクララ・シューマンのピアノ(1871年製)の調査をもとに、130年前の製造当時とほぼ同じ状態に修復された。
2007年4月12日、岡山県北の山頂にある樹齢1000年の醍醐桜のもとで、ルース・スレンチェンスカがこのピアノで桜への奉納演奏を行い、クララ・シューマンのピアノの再生に至る奇跡的な過程がOHK製作のドキュメンタリー「千年桜が初めて聞いたピアノ」で放送され、大きな感動を呼んだ。
重厚で豊かな低音、よく歌う中音域、美しく澄んだ高音に再生されたこのピアノがクララ・シューマンの魂に動かされて、どのようなメッセージをこれからわれわれに伝えてくれるのか、楽しみだ。