林原美術館コンサートに出演させて頂いて、はや10年以上を数えます。
館長谷一先生のお引立てとスタッフの皆さまの暖かいサポートに、心より感謝致します。
文化財の名品の数々に囲まれた空間での演奏会は、演奏者にとっても、参加者にとっても贅沢の極みの一言です。
演奏者は歴史的な名手の作品に対峙し、礼を失してはいけないないというプレッシャーを背負って演奏しなくてはいけないし、聴衆は演奏を聴くために、一時間以上名作に囲まれ、作品を眼に焼き付けられるという、滅多にない体験をすることになりますので。
そもそもチェロとピアノの共演は、クラシックの演奏会の中でも、出会う頻度が少ないものですが、その上、今日はショパンの最後の大作、チェロ・ソナタという、取り上げられることがほとんどない(ピアノ・パートが難しいので、ピアニストが敬遠する事に起因しているようですが、例えショパンのすべてのピアノの作品を弾いたとしても、ショパンの芸術の集大成であるチェロ・ソナタを知らないピアニストは天国に行った時にはショパンに合わせる顔がないと私は思っておりますが)曲をメインに、後半はこれでもかと、名曲ぞろいだが、演奏されることが少ない小品という、チェロ初体験者は目を回し、チェロ通には目を輝かせられるプログラムをご用意いたしました。
これまで行ってきた演奏会のコンセプトー「ロマンティシズムの極致」一に合わせた選曲でもありますが。
AIが人間を凌駕し支配する、つまり瞬時に情報を入手、提供され、不特定多数の人々に自分の発想かも確かめられない考えの断片を発信できる今の時代では、己の小ささを自覚し、想像力と感性を働かせ、見えざるものに繋がろうと命を燃やす、「ロマンティシズム」という言葉は死語になりつつありますが、去りゆく一つの時代 一 体も脳もまだ自分の物であった時代 一 への郷愁に浸るためのせめてのよすがとして、その残照が少しでも長く続くように、これらのロマンティシズムの最上のエッセンスの曲たちを奏で続け、そして感かれてほしいと願うばかりです。
2023年11月11日
三船文彰
【関連情報】
・2023年9月27日 林原美術館コンサート
・当日のプログラム
・ショパン チェロ・ソナタ ト短調 Op.65
・ショパンに対する音楽家の言葉